

第一話 幻月
第二話 さらなる<偶然性>と見えていなかった<必然性>
第三話 ちょっぴり早い、クリスマスイブ ―深紅のバラ―
第四話 雪化粧
第五話 お帰りやす
第六話 生演奏
第七話 You Can Do Magic
第八話 Last Train
第九話 美しく流れるメロディライン
第十話 結婚するって本当ですか?
第十一話 Antonym『アントニム』
第十二話 魑魅魍魎
第十三話 俯瞰
第十四話 陶酔
第十五話 ダブル・・・
第十六話 Survive(生き抜く)
第十七話 絶体絶命
第十八話 Out Of Control & Take My Breath Awa
第十九話 I Cannot Die
第二十話 乱高下
第二十一話 STORIES
第二十二話 Brain Jack
第二十三話 人間らしさ…Into the Conflict
第二十四話 影
第二十五話 Lock On
第二十六話 黒子という名の主役
第二十七話 Stay Cool SpecialのBackyard
第二十八話 再び蘇る
第二十九話 風鈴
第三十話 喪失が教えてくれるもの
第三十一話 Don't Miss It
第三十二話 MERRY CHRISTMAS
第三十三話 年賀状じまい
第三十四話 余白
第三十五話 SAKURA
第三十六話 布石
第三十七話 獅子落とし
第三十八話 黄昏
令和八年三月二十三日(月曜日)
ある春の日の出来事。
もうすぐ桜が開花する
今年は幾分早い。

鎌倉に向かうとき。
その途上の電車があるトラブルで停止した。
せいぜい数十分と思っていたが、一時間超えても全然動く気配がない。
車内放送では、「〇×トラブルのために現在対処中でございます。今しばらくお待ちくださるようお願いします」などの説明が繰り返されている。
そのとき、
車窓に花びらが一枚貼りついていることに気が付いた。
もう春が来ている。
西日が差し込んでくる。

眩しく、少し蒸し暑さを感じる。
普通ならイライラしてくる。
が、車内に不穏な空気は流れない。
それどころか、整然とした日本人の気質に驚かされる。
ただ、数人のサラリーマンおぼしき人は、時計をしきりに気にしていた。
スマホを眺めている人がやたら多い。スマホの画面が西日に反射している。
先日、スカイツリーのエレベーターが6時間近く停止。

子供が数人いたにも関わらず、よく我慢したと思う。
毎日のように電車が何かしらの原因で止まる。
車内は無音。
誰も音を立てない。
礼儀正しさに驚く。
ある人が「日本人って凄い…一時間でも平気で騒がずにおとなしく待っている」
別の人が「スマホでアップされてもいけないし、騒いだら警察沙汰になるからそれも困る」
東京から鎌倉に行くとき、車は使わないようにしている。
電車も極力乗らない。
が、年に一回は、緊急停車で電車のなかに閉じ込められることがある。
次第に、電車も乗らなくなる。
結果、歩くのが一番であることに気づく。

鎌倉から表参道まで通ってくれるクライアントは意外に多い。
ある知人は、表参道から逆方向の新橋に向い、そこで横須賀線に乗るのが一番ですよと、さりげなく教えてくれる。
さすが鎌倉近辺の交通事情を知っている。
最近、取るに足らない出来事に注意や関心を向けるように心がけている。
小さな感受性はとても大切である。
誰も見ていないような小さな出来事の中に、実は凄く重要なことがひっそりと隠れていることがある。
そこが、すべての始まりであったということもある。
研究者として生きてきた眼は、わずかであるが残っていた。
駅に着いたときにはもう日が沈んでいた。
終着駅のホームに、桜の花びらが一枚落ちていた。
車窓に貼りついていた花びらに似ている?
一緒に電車の旅をしてきたのだろうか?
いや、きっと別の花びら。

駅のホームの花びらを見つめながら、ふと自宅近くの桜を思い出した。
近所に桜の花が咲いている。
皮肉なことに桜が咲くころに春雨がやってくる。
昨日の小雨で、美しく咲いた花びらが数枚道端に落ちている。
さくらの人生は、はかなくて短い。
わずか1週間から10日間。
だからこそ、生命の尊さを再確認できる。
都心の電車の中に着物姿の女性が一人いた。
淡いピンク色の着物が、とてもよく似合っている。

まるで電車の中に咲いた桜のようだ。
見た目は、凛としているが、
それほど熱くないのに、うっすらと項に浮かぶ汗を見ていると緊張感は弱くない。
心の中では耐えがたい緊張感にさらされている。
目的地に着くのをひたすら待っているように映る。
電車に乗っている人たちの視線を独り占め。
男性も女性もその美しさに目を奪われる。
が、誰もそういう仕草を見せない。
心の中を動作として見せなくても、眼の動きは嘘をつけない。
電車の中に着物姿の女性に巡り合うことはそうそうない。
タクシーを拾えなかったに違いない。
予定の駅より一駅先に降りて、散歩しようと地下鉄の階段を一歩ずつ踏みしめて登る。
地上に着いたときには、雨も風もない晴天。
桜の花びらが二、三枚落ちていた。
今朝の雨で、木から落ちた。
今日は、二度桜の花に癒された。
P.S.カップ麺ができるより少し早く、 ウルトラマンの胸のランプが点滅する前には書き終えていた。![]()
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