最近は、遅くとも午後八時には、クリニックを後にすることにしている。
理由は明白。
少しでもいいから睡眠時間を増やしたいからである。
心底、心身の休息を欲している。
最大の課題は、心身のチャージをいかに無駄なく効率化するかである。
なぜなら、週に唯一の休息日である日曜日、私の身体はぐったり。
日曜日に疲労が抜けた月曜日は、清々しく動くことができる。
が、疲労が完全に抜けないままに、日曜日が明けた場合、月曜日からの毎朝、今日も診療と思うととても<憂うつ>になる。
しかしながら、そこから思考を切替え、布団のなかで、大腿四頭筋を起点にして、ゆっくりとストレッチモードに入る。次は体幹を中心とした臀筋、腸腰筋などの筋群…足首、足裏…すべて布団のなかで行い、少しずつ身体が伸びているのを感じる.
立位で布団から出る。その次は大胸筋…
ここまで来れば、もう大丈夫。
あとは流れに任せばいい。
無事、クリニックに到着し、診療を始め、夜八時前には完全に終了。
最後は帰路に着く。
午後八時過ぎでも、表参道駅はいつも乗り換えの人でごった返している。
年に数回、改札口の駅員さんのお世話になっている。
入場券を買って、表参道駅の構内に入り、構内のあるお店の<あるもの>を購入する。
常識的に言えば、入場券、あるいはそれ相応の金額を支払い購入する。
ところが、顔見知りの駅員さんが、気を利かせてくれることがある。
稀に駅員さんに「構内の○×に入りたいので、ここを通っていいですか?」と了解を取って入場券なしで構内に入れてもらえることもある。
粋な計らい。
ただし、構内を出るときは、「必ずここを通過して、そのときに領収書をみせてください」と確認の言葉を言う。
「もちろん、了解しています」
私はマスクを常にしているので、マスク越しであるが、同じ駅員さんに遭遇することがある。
数分で<あるもの>を買うなどの簡単な買い物をさっと終わらせ、表参道駅の地下構内を潜り抜け、地上階に上がる。
表参道駅構内外ではなく、渋谷駅構外のデパ地下がベストと思うが、渋谷まで歩いていく元気は、午後八時過ぎには残っていない。
そもそもデパ地下は閉まっている…?
地下鉄に全然乗らないのに、地下鉄駅構内にいる人はそういない。
私は、決して構内をウロウロしない…女性は品選びに時間を割く…女性の買い物の最たる特徴。
私は、余程のことがない限り、女性の買い物に付き合わない…そこで迷う時間がもったいない。
私は、最初から目的を決めて動くので、早いときは一分もかからない。
数秒の早業で終わらせる。
購入するものが決まっているから迷うことは一切ない。
マスクで顔を隠しているので、クライアントにすれ違ってもわからないと思っていた。
が、身体つきなどの私の特徴を知っている、常連さんの人の眼はごまかせない。
とくに言語聴覚系よりも視覚系優位の人の場合、形状認知などが異常に長けている人はそうである。
私が想定している以上に、クライアントの人たちとすれ違っている。
その一方で、人違いも多い。
視覚系がいいと自信を持ちすぎると足元を救われることがある。
とくに思い込みが激しい人はまさしくその系の人たち。
「先生、昨日中目にいたでしょ?」
「それは間違い…」
「そっくりだったけど」
「東京に三十年以上住んでいて、中目を素通りして横浜方面に向かうことがあっても、中目は私には希薄…。
私は中目で下車したことが一度もない…100%人違い…」
私を見かけたという人は多いが、ほとんど人違い。
今日も診療帰りに表参道駅構内に立ち寄る。
支払いのとき、「あれ財布がない…」
カバンのなかを探すがない…さっき、立ち留まって、<ある別のもの>をカバンから出して元に戻すときに、財布が一緒にこぼれ落ちた。
カードからすべてを入れていた財布がない。
現金は大していれていないから、その被害は最小限。
表参道の交番に落し物届けのために直行。
明後日の京都出張は中止…茫然。
「誰かが拾ってくれるかもしれない…運が残っているかもしれない…」。
「何、馬鹿な妄想を抱いているの?」と言い返す人が家族にいる。
疲れているので、喧嘩する元気さえもない。
私は、すぐに就寝して爆睡…。
ここ十年以上、都内の多くの警察署から飛んでくる、精神科的な診療に関する、緊急の依頼を、どんなに忙しくても時間を作り、私なりに対応してこなしてきた。
全然大した診療ではないが、
都内あちこちの警察署のある部署の担当者から
「今から診て欲しい人がいるのですが?」と言われ続け、
「○×時に空いていますから、そこであれば、今からすぐに来てもいいですよ」と言い続けて二十年前後経つ。
それなりに貢献してきたのだから、運は必ず残っていると信じていた。
翌朝、ある警察署に財布の届がないかどうかの確認の電話。
すると「届けがあります…」
読み通り。
とは言っても、ある意味、奇跡に近い。
運が残っていた…。
家族のひとりが一言
「日本も捨てたものじゃない…私も人の財布を交番に届けたことがあるから、あなたの運の下地を私が作ったの…」
言いたい放題…聞いて聞かぬふり。
京都出張が見事に復活。
しかし、一泊二日のとんぼ返りの強硬スケジュール。
京都から東京行上りの帰り道、米原付近を通過し、東海道沿線では雪で遅延する可能性の最も高い関ヶ原付近を通過。
昨日から日本列島の日本海側は大雪、テレビで見た記憶が、頭の片隅に残っていた。
まさか、その一端を、滋賀県米原から岐阜県関ヶ原近辺で、窺うことができるとは思わなかった。
京都駅を出て、朝早い新幹線でうつらうつらしているときに、辺り一面の大雪が白銀になり、その反射で非常に眩しい。
「やけに眩しいなあ」と思いつつ、
眼を開けると、視界に入って来る世界が<雪化粧>…見事なまでに一変している。