南青山アンティーク通りクリニック

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第四話 雪化粧

午後八時

 最近は、遅くとも午後八時には、クリニックを後にすることにしている。
 理由は明白。
 少しでもいいから睡眠時間を増やしたいからである。

疲弊

 心底、心身の休息を欲している。
 最大の課題は、心身のチャージをいかに無駄なく効率化するかである。

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休息日

 なぜなら、週に唯一の休息日である日曜日、私の身体はぐったり。

憂うつ

 日曜日に疲労が抜けた月曜日は、清々しく動くことができる。
が、疲労が完全に抜けないままに、日曜日が明けた場合、月曜日からの毎朝、今日も診療と思うととても<憂うつ>になる。

布団の中

 しかしながら、そこから思考を切替え、布団のなかで、大腿四頭筋を起点にして、ゆっくりとストレッチモードに入る。次は体幹を中心とした臀筋、腸腰筋などの筋群…足首、足裏…すべて布団のなかで行い、少しずつ身体が伸びているのを感じる.
 立位で布団から出る。その次は大胸筋…
 ここまで来れば、もう大丈夫。
 あとは流れに任せばいい。

診療、そして帰路

 無事、クリニックに到着し、診療を始め、夜八時前には完全に終了。
 最後は帰路に着く。

表参道の駅構内外

 午後八時過ぎでも、表参道駅はいつも乗り換えの人でごった返している。
 年に数回、改札口の駅員さんのお世話になっている。
 入場券を買って、表参道駅の構内に入り、構内のあるお店の<あるもの>を購入する。
 常識的に言えば、入場券、あるいはそれ相応の金額を支払い購入する。

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 ところが、顔見知りの駅員さんが、気を利かせてくれることがある。
 稀に駅員さんに「構内の○×に入りたいので、ここを通っていいですか?」と了解を取って入場券なしで構内に入れてもらえることもある。

計らい

 粋な計らい。
 ただし、構内を出るときは、「必ずここを通過して、そのときに領収書をみせてください」と確認の言葉を言う。
 「もちろん、了解しています」

   私はマスクを常にしているので、マスク越しであるが、同じ駅員さんに遭遇することがある。
 数分で<あるもの>を買うなどの簡単な買い物をさっと終わらせ、表参道駅の地下構内を潜り抜け、地上階に上がる。

渋谷

 表参道駅構内外ではなく、渋谷駅構外のデパ地下がベストと思うが、渋谷まで歩いていく元気は、午後八時過ぎには残っていない。

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 そもそもデパ地下は閉まっている…?

地下鉄

 地下鉄に全然乗らないのに、地下鉄駅構内にいる人はそういない。
 私は、決して構内をウロウロしない…女性は品選びに時間を割く…女性の買い物の最たる特徴。
 私は、余程のことがない限り、女性の買い物に付き合わない…そこで迷う時間がもったいない。
私は、最初から目的を決めて動くので、早いときは一分もかからない。
数秒の早業で終わらせる。
購入するものが決まっているから迷うことは一切ない。

バレテイル

 マスクで顔を隠しているので、クライアントにすれ違ってもわからないと思っていた。
 が、身体つきなどの私の特徴を知っている、常連さんの人の眼はごまかせない。
 とくに言語聴覚系よりも視覚系優位の人の場合、形状認知などが異常に長けている人はそうである。
 私が想定している以上に、クライアントの人たちとすれ違っている。

人違い

 その一方で、人違いも多い。
 視覚系がいいと自信を持ちすぎると足元を救われることがある。
 とくに思い込みが激しい人はまさしくその系の人たち。
「先生、昨日中目にいたでしょ?」

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「それは間違い…」
「そっくりだったけど」
「東京に三十年以上住んでいて、中目を素通りして横浜方面に向かうことがあっても、中目は私には希薄…。
 私は中目で下車したことが一度もない…100%人違い…」
 私を見かけたという人は多いが、ほとんど人違い。

今日もまた

 今日も診療帰りに表参道駅構内に立ち寄る。
 支払いのとき、「あれ財布がない…」
 カバンのなかを探すがない…さっき、立ち留まって、<ある別のもの>をカバンから出して元に戻すときに、財布が一緒にこぼれ落ちた。

京都出張

 カードからすべてを入れていた財布がない。
 現金は大していれていないから、その被害は最小限。
 表参道の交番に落し物届けのために直行。
 明後日の京都出張は中止…茫然。
 

「誰かが拾ってくれるかもしれない…運が残っているかもしれない…」。
「何、馬鹿な妄想を抱いているの?」と言い返す人が家族にいる。
 疲れているので、喧嘩する元気さえもない。
 私は、すぐに就寝して爆睡…。

警察署絡みの緊急の診療

 ここ十年以上、都内の多くの警察署から飛んでくる、精神科的な診療に関する、緊急の依頼を、どんなに忙しくても時間を作り、私なりに対応してこなしてきた。
 全然大した診療ではないが、
 都内あちこちの警察署のある部署の担当者から
「今から診て欲しい人がいるのですが?」と言われ続け、
「○×時に空いていますから、そこであれば、今からすぐに来てもいいですよ」と言い続けて二十年前後経つ。
 それなりに貢献してきたのだから、運は必ず残っていると信じていた。

翌朝

 翌朝、ある警察署に財布の届がないかどうかの確認の電話。
 すると「届けがあります…」
 読み通り。
 とは言っても、ある意味、奇跡に近い。
 運が残っていた…。
 家族のひとりが一言
「日本も捨てたものじゃない…私も人の財布を交番に届けたことがあるから、あなたの運の下地を私が作ったの…」
 言いたい放題…聞いて聞かぬふり。

復活

 京都出張が見事に復活。

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 しかし、一泊二日のとんぼ返りの強硬スケジュール。

大雪

 京都から東京行上りの帰り道、米原付近を通過し、東海道沿線では雪で遅延する可能性の最も高い関ヶ原付近を通過。
 昨日から日本列島の日本海側は大雪、テレビで見た記憶が、頭の片隅に残っていた。

一端

 まさか、その一端を、滋賀県米原から岐阜県関ヶ原近辺で、窺うことができるとは思わなかった。

銀世界

 京都駅を出て、朝早い新幹線でうつらうつらしているときに、辺り一面の大雪が白銀になり、その反射で非常に眩しい。
「やけに眩しいなあ」と思いつつ、
 眼を開けると、視界に入って来る世界が<雪化粧>…見事なまでに一変している。

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