昨年の夏頃、
クリニックから一望できる、ある光景に素早く反応する人がいた。
「あれ?○×社の社名入りのクレーンが見える…クレーンが効率よく廻っているときは、それなりの需要がある…」
今、そのクレーンは完全に撤去され、別のところで使われている。
同じクレーンでも、ゲーセンにクレーンゲームがある。
クレーンゲームと言えば、その代表格がUFO Catcher。
UFO Catcher は今も人気があると聞く…。
私はUFO Catcherに関する興味は薄く、まさかタイトルに浮上してくるとは考えていなかった。
そのとき、私は何故か<焼きそば>をイメージした…今日は忙しく、朝から何も食べていない。
糖分の補給が急務。
コンビニに駆け込むか、近くの自販機で糖分たっぷりのカフェラテを買ってくるか?
ほんの一瞬、躊躇したが、後者のほうが断然早い。
糖尿病の低血糖発作ではないから、血糖値をすぐさま上昇させる清涼飲料水は常備していない。
数日前、診療終了後の八時前後、或る用事で渋谷宮益坂下の交差点近辺に出かけた。
○△電気量販店の耳を劈く音がしない…異様なまでの静けさ。
同じフロアに四半世紀前からゲーセンがある。
今も尚営業している…スマホ全盛の時期によく持ちこたえている。
UFO Catcher大活躍のおかげ?
思わず外から中を覗き込んだ…そこにも異様な静寂さがある…しかも様々なタイプのUFO Catcherが何十台も並んでいる。
まるでファーストフード店が立ち並ぶフードコート。
毎年、ぬいぐるみや人形をこよなく愛する男性に出会う。
その持つ意味が理解できなかった頃が、今では懐かしく思える。
どうして男性がぬいぐるみを好きになるの?という素朴な疑問が涌く…女性ならわかるが…。
今では手に取るようにわかる。
彼らは、ぬいぐるみを使って、ひとり芝居のように、彼らとコミュニケーションを図る。
ぬいぐるみは犬猫の動物と同様に、
<嘘をつかない。余計なことをしゃべらない。自分の思い通りになる>。
重要な点は、人でなければ、全然怖く感じない…安心感が違うこと。
ぬいぐるみ等であれば、傷つけることがない。
しかも、ぬいぐるみ等であれば、傷つけられるようなこともない。
人形でも一向に構わない…もちろん、犬や猫のペットでも十分。
好みに任せればいい。
対人関係上の不安、緊張、恐怖こそが、その本質の一部。
或る日、突然に、周りは誰も覚えていない事象に対して、フラッシュバックすることもあれば、パニックになることもある。
PTSD、パニック障害、躁うつ病などと誤診される。
<人が怖い…人は緊張する>という言葉でアピールすることもしばしば。
<○×っぽさ>の香りがほんのりと漂っている。
彼らは言葉を上手くあやつっているように見えるが、よくよく観察すると、行間が読めていない。
あまりにも多種多様のバージョンがある。
見ればみるほど、そのバリエーションの多彩さに驚く。
診断基準を満たす人なら、誰でも容易にジャッジできる…。
診断基準を全然満たさない…グレーゾーンでもない。10-30%の微妙なグラデーションを持つ人たちはわかりにくいが、それを感じる取ることができるかどうかが生命線。
ほぼ毎日、朝から晩までこの業界で働けば、そのわずかのグラデーションを感じ取れるようになってくる。
理論を越えた感覚の世界。
ある男の子が、ある<ぬいぐるみ>ほしさにUFO Catcherにはまり、ゲットするまでやり続けていたそうである。
ハマることはとても危ないが、その集中力は捨てがたい。
決して侮れない。
が、外観からそういうパワーを秘めているとは思えない。
風の便りでは、
遠回りはしたようであるが、今は医師として働いているらしい。
これから天国行の電車に乗る。
いや違う…世の中、そう甘くない。
Last Train to London(1979)、半世紀前のTimeless Classicを思い出す。
彼は9:29発最終電車に駆けこみ、新しい扉を開いたかのように思えたが…。
そう言えば、切符売り場の職員が、異質な雰囲気を漂わせながら、薄気味悪い笑みをこぼしていたのを思い出した。
そのとき変だと思わなかった?
「向こうを見て…私たちと同じ時刻に出た列車が走っている…あの電車も9:29発?」
「乗る電車を間違えた?」
「9:29発電車は、二本あったの?」
「じゃ、この電車はどこに向かっているの?」
「行先はLondonとは書いていない…あそこを見て…別の行先を書いてある…でも、その字が読めない。この世のものじゃない…今、どこに向かっているの」
どんどん離れていく。