南青山アンティーク通りクリニック

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第十話 結婚するって本当ですか?

令和六年七月二十七日(土曜日)

白い壁

 今からちょうど一年前。
今年同様に猛暑による炎天下の頃に、時間を巻き戻す。

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 ある仕事を終えて、白い壁沿いを歩いていた。
 とても高くて大きな壁…White Wall。
 俗世間から隔絶されている。

出張

 ある仕事のために出張。
 いつもは私の診察室で仕事を行うが、そのときばかりは出張せざるを得ない。
 診察室では行えない仕事。

生霊

 歩いていると、とても冷やかな隙間風が、心の中をさっと走り去る。
「え、これって何?」と思いながら、吹き抜ける冷気に驚く。
 非科学的であるが、生霊のようなものが、私の身体を突き抜けた?
 瞬間的に身体が凍りつく。

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 数分後には、×◎線地下鉄の△駅に到着。
 が、その後は何も起こらない。

回避不可

 今の仕事に従事していると、避けて通ることができない事態に遭遇する。

趣向

 それから数か月後。

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 私は今、証言台に立っている。
 「○×障害について説明してください」と尋ねられる。
 教科書通りに簡潔に淡々と答える。
 趣向を凝らし、専門用語を回避して、できるだけ比喩的に話をするように努めた。
 そして、最大の山場を迎える。

衝動性

 「では、衝動性について教えてください」
 ここが焦点に他ならないと自分勝手に思い込む。  衝動性と計画性の違いは決して小さくないからである。

ちゃぶ台

 私は、
 「瞬間湯沸かし器です」
「昭和のオヤジが、突然、ちゃぶ台をひっくり返す光景をイメージしてください」
と即座に答えた。

 私に質問した人が、やさしく人を包み込むような笑みを浮かべながら、小さく頷く。

一問一答

 一問一答の世界の渦中。

 長話はダメ…回りくどいのも勿論ダメ。
 だらだらとしゃべるのも禁忌…余計な言葉は要らない…単刀直入に要点のみ。

 数時間に及んだが、無事終了。

ラジオ

 旅先でレンタカーを借りると無意識にラジオをつけてしまう。
旅先でFM放送を聞くと、車を運転しながら、そのエリアの最たる特性を聴覚的に感じることができる。
地元の人のトークがそこに入ると、普段遭遇することのない世界に引き込まれる。
だから面白い。
車窓からも自然に視覚的な風景が次から次へと入って来る。

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脳のなかで聴覚情報と視覚情報が統合し、予想できないイメージが完成する。
それもまた面白く、興味深い味わいがある。

コンビニ

最近、自宅でもラジオを聞くことがある。

 その数カ月前の話。
 ラジオを聞きたいなら、スマホのアプリさえあれば、ラジオを聞ける…とある知人の返答。
 でも、あーそうか…スマホを持っていないよね。コンビニに売っているから、それを買えば早い。

昭和の歌

 徒歩一分もかからないところにコンビニがあり、買ってきてラジオをつけた。
 すると、懐かしい昭和の歌が聞こえてくる。
 確か<結婚するって本当ですか>という曲名。

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半世紀前の昭和49年度の名曲のひとつ?
歌詞は、些細なことでけんか別れをしまったことを後悔し、今も帰りを待っている女性の心情を歌っている。

家族は要らない

 数十年前は、「自分の親を見ていると、全然楽しくない…家族を欲しいと思わなくなる。知らないうちに結婚したいとは全然思わなくなってしまった」という人が少なからずいた。
 いや意外に多かったように思う。
 自分の家族に悪いイメージしか持っていない。

 他にも数多くのさまざまな理由があるように思う。
 人それぞれのバックグランドがある。

 が、少しずつ時代が変化している。

時代の変遷

 最近、増えているのは、人づきあいが嫌…面倒。
 もし結婚したら<人づきあいが増えるから結構です>といいながらも、その一方で、インスタグラムなどのSNS系列の普及で承認欲求を満たしている。
 実際は増えているように思えるが、そうではなく、はっきりと言葉にする人が増えたに過ぎないのかもしれない。
 と言いながらも、<そばに誰かいないと淋しい>と真逆の、本音の一端を訴える人もいる。

 一方通行?

大丈夫?

 現代の<結婚するって本当ですか>はとてもセンシティブ。
 彼らの周囲の人たちは、結婚して大丈夫ですか?しないほうがいいかも?たぶん長続きしないと思う…と危惧しているが、心配していることを安易に口に出せない。
 当人同士が「僕たち<結婚するって本当ですか>」と思っていることもある。
 現実逃避…。

セフティエリア

 もし幸いにも結婚したいと思う人に巡り合えても、そういう人が目の前に現れたとしても、自分のセフティエリアに土足で入ってほしくない。
 自在にハンドリングできる伴侶ならいいが、できない人はお断り。

戻りたくない…

 気疲れはもうしたくない。
 男性よりも女性なら、とくにそうかもしれない。
 ようやく親元を離れ、田舎の村社会から脱した人もいる。
 東京生まれでも、やっとの思いで一人暮らしを始めた人もいる。

 二度と昔に戻りたくないと思う人は、物凄い数になるように思う。

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誰も知らない

 ニューヨーク、パリのように、自分を知る人がまったくいない世界を望む人は意外に多い。
 周りに気を使うことは一切ない。
自分のことを誰も知らない空間を求めて日本を離れる人もいる。

言葉の難しさ

 最近、言葉は難しいと思う。

 昭和の<結婚するって本当ですか>と令和の<結婚するって本当ですか>は、同じ言葉でも、その言葉の持つ意味に微妙な変化を生じている。
 同じ言葉であっても、取り様によって意味が異なる。

 近未来の<結婚するって本当ですか>はどう変化するのだろうか?と思ってしまう。
 ほんの少し楽しみであり、怖い側面もある。

スマホ

 私の場合、
 スマホは当面要らない…人から見ると何かと不便に見えるかもしれないが、脳に休息をもたらすという貢献度は半端なく大きい。
余計なことを考えなくていい。
しかも、強迫性を刺激されなくていい。



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見えるよりも見えないほうがいい。
聞こえるよりも聞こえないほうがいい。
知り過ぎるのもどうか…知らない方が幸せなこともある。

感覚の遮断

さまざまな感覚を遮断すると注意が散漫にならない。
結果、ある特定の感覚のみに注意を促すことができる…必然的にその感覚は磨かれ鋭くなる。
もしある感覚を鋭くしたければ、それ以外の感覚を完全にブロックすればいい。
 感覚の遮断が手っ取り早い。

焦点

知識の集積があればいいとは、必ずしも限らない。
 情報流入をそこそこに絶ち、特定のもののみに焦点を当てるのも案外悪くない。