第一話 幻月
第二話 さらなる<偶然性>と見えていなかった<必然性>
第三話 ちょっぴり早い、クリスマスイブ ―深紅のバラ―
第四話 雪化粧
第五話 お帰りやす
第六話 生演奏
第七話 You Can Do Magic
第八話 Last Train
第九話 美しく流れるメロディライン
第十話 結婚するって本当ですか?
第十一話 Antonym『アントニム』
第十二話 魑魅魍魎
第十三話 俯瞰
第十四話 陶酔
第十五話 ダブル・・・
第十六話 Survive(生き抜く)
第十七話 絶体絶命
第十八話 Out Of Control & Take My Breath Awa
第十九話 I Cannot Die
第二十話 乱高下
第二十一話 STORIES
第二十二話 Brain Jack
第二十三話 人間らしさ…Into the Conflict
今から約半世紀ほど前に、医師免許を持たない天才外科医のマンガ、ブラックジャック(Black Jack) が大流行。
いかなるオペも冷静沈着にこなす。
私もその当時、愛読していた。
ブラックジャックにあこがれて医学部に進学した人も少なくない。
確か、手塚治虫さんが書いた作品。
一方、飛行機の乗っ取りは、ハイジャック(Hi Jack)である。
これに対して、心を自由自在に操る術は洗脳…言い方を変えると、私の造語<Brain Jack>。
人の<入水行動>は、昔から跡を絶たない。
生物界で言えば、カマキリの<入水行動>がよく知られている。
カマキリの<入水行動>は生物界の謎のひとつ。
カマキリにパラサイト、すなわち寄生したハリガネムシは、カマキリの行動を支配し、カマキリを水辺に誘導し水死させる。
カマキリを自在に操るハリガネムシは脅威。
カマキリにパラサイトするハリガネムシはまさしく<Brain Jack>…。
その遺伝子操作の機序が科学的に明らかにされて、<Brain Jack>の謎が解き明かされた。
その中心は、日本を中心とした国際的コラボチーム。
天才の集団と言っても過言ではないように思う。
興味ある方はネットで検索すると出てくる。
数年前の話…。
Splendid…Unbelievable…Incredible…。
賞賛を遥かに超えた研究成果。
遺伝と言えば、ほとんどの人が<親から子供へ>と縦のラインを考える。
すなわち、垂直伝播である。
ところが、水平伝播もあるから面白い。
それはパラサイト。
ハリガネムシがカマキリの脳にパラサイトし、カマキリとハリガネムシの関係が、ある科学誌に発表されるに至った
切り口を食物連鎖の観点に切り替えると、
カマキリは入水行動で死んでしまうことで、生物界の食物連鎖は維持できる。
カマキリの運命としか言いようがない。
死を代償としたとしても、生物界の食物連鎖の安定性を保つ。
言葉にならない、皮肉な宿命を背負う。
同様の生物界の現象は珍しくないと思う。
遺伝子操作で<入水行動>に追い込む
次から次へと生物界の謎が解けていく。
ひいては心の病の謎が紐解くことができれば…。
しかしながら、その解明はなかなか大変…一筋縄ではいかない。
簡単ではない。
その解明に一生を捧げる人も大勢いる。
われわれ精神科医にはカウンセリングと呼ぶ手法もあるが、生物学的な色彩を帯びれば帯びるほど、<言葉の遊び><言葉のマジック>で治療は全然通用しない。
到底、及ばない。
言葉で対処できるならとてもイージー。
精神薬理学的な手法を活用するしか方法がない。
心の病でも心理的要因や環境的要因などの外的な要因が主たる原因の病がある。
他方、心の病の中には、生物学的な原因や遺伝子の謎を解きほぐさなければ対処できないものも多く、その内因が大きな障壁となっている。
なかには、両者が複雑に絡み合っている心の病もある。
確かにカウンセリング的なアプローチも重要であるが、精神薬理学的なScientific薬物治療も大切。
精神医学の世界で、何かの治療に固執し、偏るのは危険を伴う。
状況に応じて、二つの武器をいかに使いこなせるか…それがわれわれの仕事であると信じて疑わない。
われわれ現場の人間は、今使える薬剤で対処するしか術がない。
それが、私たち精神科医が担うべき<役割>。