

第一話 幻月
第二話 さらなる<偶然性>と見えていなかった<必然性>
第三話 ちょっぴり早い、クリスマスイブ ―深紅のバラ―
第四話 雪化粧
第五話 お帰りやす
第六話 生演奏
第七話 You Can Do Magic
第八話 Last Train
第九話 美しく流れるメロディライン
第十話 結婚するって本当ですか?
第十一話 Antonym『アントニム』
第十二話 魑魅魍魎
第十三話 俯瞰
第十四話 陶酔
第十五話 ダブル・・・
第十六話 Survive(生き抜く)
第十七話 絶体絶命
第十八話 Out Of Control & Take My Breath Awa
第十九話 I Cannot Die
第二十話 乱高下
第二十一話 STORIES
第二十二話 Brain Jack
第二十三話 人間らしさ…Into the Conflict
第二十四話 影
第二十五話 Lock On
第二十六話 黒子という名の主役
第二十七話 Stay Cool SpecialのBackyard
第二十八話 再び蘇る
第二十九話 風鈴
第三十話 喪失が教えてくれるもの
―いつもの風景より―
帰省…。
瀬戸内海を一望できる<いつものホテル>に数泊。

時間に余裕があったので、高層階のスカイバーに立ち寄った。
バーカウンターから瀬戸内海を見渡すことができる。
確か夕方6時前後。
辺りが薄暗くなる直前。
徐々にサンセットに入っていく。
波ひとつ立たない穏やかで静寂な、瀬戸内海が眼前にあり、その後方には、瀬戸内海に浮かぶ小島が、バランスよく、いいアクセントとして、いくつも並んでいる。
しかも、サンセットの影響で、海面がとても優雅に、と思えば、ときに妖しく光り輝き、非常に美しく映える。

ある葛藤が心の中で錯綜する。
「最高級クラスの景観が目前にある…」
それと同時に「今、どうして雑踏の東京にいる…仕事には適しているが…」
幼い頃から、最高レベルの眺望とは露とも知らず、当たり前の<いつもの風景>と思い込んでいたことに気が付いていなかった。
美しいものを素直に美しいと思えないことがある。
首都圏で綺麗、美しいと感じる景観に巡り合うことはそうそうない…。
巡り合っていたとしても、心には全然響かない。
今頃になって、ようやく気付いた…あまりにも遅すぎる。
が、冷静に考えてみると首都圏で長年生活したからこそ、瀬戸内海の夕景の良さを実感できるようになった。
<人疲れ>するムラ社会に住み続けていれば、その良さに気付かないまま…。

瀬戸内海に浮かぶ小島をバックに海面がゆらゆら揺れながら、夕日が徐々に沈み、空と海が溶け合い、辺りは真っ暗になる。
慣れは、人の感動を鈍らせ、とても大きな妨げになることがある。
それでも記憶に刻まれた風景は、時を経ても色あせない。
そして、数年前のサンセットの美しさは、そのときにしっかりと目に焼き付けたので、いつでも思い起こせる。
今さらながら、喪失は価値あるものと感じさせられる。
失って初めてわかる喪失…失わないとわからない喪失。
喪失の波は突然やってきて消えていく。
襲って来る喪失は、生きるために欠かせない。
数年前の瞬間的な感動は、その一瞬が<最初で最後>。
もはや二度と味わうことができないことは、十分過ぎるほどわかっている。
最近、瀬戸内海を見渡せる、古代ギリシャの円形コロシアムをモデルにした、野外音楽広場ができたと聞く。
タイミングさえあえば…。

今を離れる気持ちはない…住み慣れれば、その土地は<都>になる。
それでも人は変化を恐れながら、変化の中でしか、新しい<いつもの風景>を見つけられない…。