第一話 幻月
第二話 さらなる<偶然性>と見えていなかった<必然性>
第三話 ちょっぴり早い、クリスマスイブ ―深紅のバラ―
第四話 雪化粧
第五話 お帰りやす
第六話 生演奏
第七話 You Can Do Magic
第八話 Last Train
第九話 美しく流れるメロディライン
第十話 結婚するって本当ですか?
第十一話 Antonym『アントニム』
第十二話 魑魅魍魎
第十三話 俯瞰
第十四話 陶酔
第十五話 ダブル・・・
第十六話 Survive(生き抜く)
第十七話 絶体絶命
第十八話 Out Of Control & Take My Breath Awa
第十九話 I Cannot Die
第二十話 乱高下
第二十一話 STORIES
第二十二話 Brain Jack
第二十三話 人間らしさ…Into the Conflict
第二十四話 影
第二十五話 Lock On
第二十六話 黒子という名の主役
Antonym『アントニム』という言葉がある。
聞き慣れない英語である…聞き慣れているほうが変?…そもそも使う機会がない。
日本語訳は、対義語とか反対語と訳される。
<高い>に対して<低い>、<明るい>に対して<暗い>といった具合。
誰でも無意識に使っている。
真っ向から話し相手に反論するときにも使う。
Antonym『アントニム』という用語は、「私はそういう言葉を知らない…聞いたことがない」「私には関係ない…まったく意味をなさない」「どうでもいい」という人も数多くいるように思う。
それがごく普通。
濫用は危険…。
私の場合、Antonym『アントニム』は、人の心を理解する、推測する際にとても重宝する用語である。
何かを考えるとき、発想法のひとつとして、言葉の意味の反対語、Antonym『アントニム』を模索する癖を身に着けておくと何かと便利なこともある。
ただし、度が過ぎると天邪鬼(あまのじゃく)とみなされ浮くので注意も必要。
何かの文章を考えるとき、何かの発言をするとき、あえて真逆のことを行えば、周囲は「えっ?」と思う。
周囲の人たちを惹きつける効果もある。
物理学のなかに、誰でも知っている、作用・反作用という基本中の<キ>の法則がある。
私は物理の専門家ではないが、作用・反作用という現象は痛快。
物体に働く力は、常に二つの物体の間で力を及ぼし合う。
作用と反作用の両方をセットで考えないといけない。
朝、込み合う電車の中、押されても押し返して、平衡関係を維持している。
書籍のなかに<光と影>という小見出しをよくみかける。
とてもわかりやすくイメージしやすい比喩である。
物理学のなかにも、<光と影>はある。
タワーマンションは太陽の光を燦々と浴びるが、そのおかげでそれ相応の影もできる。
江戸時代のように平屋が普通の時代には、家に塀でも創らないと影ができない。
城主クラスになれば、話は別かもしれない。
物理学の<作用と反作用>、文学の<光と影>のいずれもAntonym『アントニム』の関係にある。
人の心も同様。
誰かが何かを感じるということは、直ちに特定できないとしても、どこかにその原因がある。
精神現象の多くは、作用・反作用のセットで考えるとわかりやすくなる。
人の心の動きも、単独で起きることはあり得ない。
私が勝手に泣いているだけ…私が一人で怒っているだけのように見えても、もしそれが反作用と考えれば、その源の主作用が、必ずどこかに存在する。
その原因となるものが隠れている。
見えないだけ…。
表に顕在化している、あるいは目の前に見えるもののみを議論しても仕方ない。
その原因である主作用の正体が一体何か?
以上は、最もシンプルな心の作用・反作用の話。
もうひとつ考えないといけない。
現実の社会では、数えきれない複雑な対人関係がある。
作用・反作用があちこちに発生し、微妙に絡み合う。
二人以上の人間がいれば、作用・反作用の関係はそこに生まれる。
もしAさんとBさんに加えて、Cさんがそこに入れば、三者の関係性になる。
例えば、AさんとBさんが結婚し、子供であるCさんが生まれた場合も同じ…。
子どもが生まれ、二者関係が三者関係になり、新たな世界が生じる。
育児などの育て方を始め、意見がAさんとBさんで大きく食い違い、結婚後初めて見解の相違の大きさに気付く。どちらかが我慢して全面的に従えば、話は違うかもしれないが…。
ある部署に異動があり、たった一人入れ替わるだけでも異なる力学関係が生まれる。
二人であれば親しい友達関係であっても、そこに一人入ると三者関係になり、これまでに見えなかった作用・反作用の力学関係が露呈する。
人の心も作用・反作用は必発。
毎日、目の当たりにしている現象に、ほんの少し角度をつけて、力学的に述べたに過ぎない。