第一話 幻月
第二話 さらなる<偶然性>と見えていなかった<必然性>
第三話 ちょっぴり早い、クリスマスイブ ―深紅のバラ―
第四話 雪化粧
第五話 お帰りやす
第六話 生演奏
第七話 You Can Do Magic
第八話 Last Train
第九話 美しく流れるメロディライン
第十話 結婚するって本当ですか?
第十一話 Antonym『アントニム』
第十二話 魑魅魍魎
第十三話 俯瞰
第十四話 陶酔
第十五話 ダブル・・・
第十六話 Survive(生き抜く)
第十七話 絶体絶命
第十八話 Out Of Control & Take My Breath Awa
第十九話 I Cannot Die
第二十話 乱高下
第二十一話 STORIES
第二十二話 Brain Jack
第二十三話 人間らしさ…Into the Conflict
第二十四話 影
第二十五話 Lock On
第二十六話 黒子という名の主役
第二十七話 Stay Cool SpecialのBackyard
昨年の夏頃、
クリニックから一望できる、ある光景に素早く反応する人がいた。
「あれ?○×社の社名入りのクレーンが見える…クレーンが効率よく廻っているときは、それなりの需要がある…」
今、そのクレーンは完全に撤去され、別のところで使われている。
同じクレーンでも、ゲーセンにクレーンゲームがある。
クレーンゲームと言えば、その代表格がUFO Catcher。
UFO Catcher は今も人気があると聞く…。
私はUFO Catcherに関する興味は薄く、まさかタイトルに浮上してくるとは考えていなかった。
そのとき、私は何故か<焼きそば>をイメージした…今日は忙しく、朝から何も食べていない。
糖分の補給が急務。
コンビニに駆け込むか、近くの自販機で糖分たっぷりのカフェラテを買ってくるか?
ほんの一瞬、躊躇したが、後者のほうが断然早い。
糖尿病の低血糖発作ではないから、血糖値をすぐさま上昇させる清涼飲料水は常備していない。
数日前、診療終了後の八時前後、或る用事で渋谷宮益坂下の交差点近辺に出かけた。
○△電気量販店の耳を劈く音がしない…異様なまでの静けさ。
同じフロアに四半世紀前からゲーセンがある。
今も尚営業している…スマホ全盛の時期によく持ちこたえている。
UFO Catcher大活躍のおかげ?
思わず外から中を覗き込んだ…そこにも異様な静寂さがある…しかも様々なタイプのUFO Catcherが何十台も並んでいる。
まるでファーストフード店が立ち並ぶフードコート。
毎年、ぬいぐるみや人形をこよなく愛する男性に出会う。
その持つ意味が理解できなかった頃が、今では懐かしく思える。
どうして男性がぬいぐるみを好きになるの?という素朴な疑問が涌く…女性ならわかるが…。
今では手に取るようにわかる。
彼らは、ぬいぐるみを使って、ひとり芝居のように、彼らとコミュニケーションを図る。
ぬいぐるみは犬猫の動物と同様に、
<嘘をつかない。余計なことをしゃべらない。自分の思い通りになる>。
重要な点は、人でなければ、全然怖く感じない…安心感が違うこと。
ぬいぐるみ等であれば、傷つけることがない。
しかも、ぬいぐるみ等であれば、傷つけられるようなこともない。
人形でも一向に構わない…もちろん、犬や猫のペットでも十分。
好みに任せればいい。
対人関係上の不安、緊張、恐怖こそが、その本質の一部。
或る日、突然に、周りは誰も覚えていない事象に対して、フラッシュバックすることもあれば、パニックになることもある。
PTSD、パニック障害、躁うつ病などと誤診される。
<人が怖い…人は緊張する>という言葉でアピールすることもしばしば。
<○×っぽさ>の香りがほんのりと漂っている。
彼らは言葉を上手くあやつっているように見えるが、よくよく観察すると、行間が読めていない。
あまりにも多種多様のバージョンがある。
見ればみるほど、そのバリエーションの多彩さに驚く。
診断基準を満たす人なら、誰でも容易にジャッジできる…。
診断基準を全然満たさない…グレーゾーンでもない。10-30%の微妙なグラデーションを持つ人たちはわかりにくいが、それを感じる取ることができるかどうかが生命線。
ほぼ毎日、朝から晩までこの業界で働けば、そのわずかのグラデーションを感じ取れるようになってくる。
理論を越えた感覚の世界。
ある男の子が、ある<ぬいぐるみ>ほしさにUFO Catcherにはまり、ゲットするまでやり続けていたそうである。
ハマることはとても危ないが、その集中力は捨てがたい。
決して侮れない。
が、外観からそういうパワーを秘めているとは思えない。
風の便りでは、
遠回りはしたようであるが、今は医師として働いているらしい。
これから天国行の電車に乗る。
いや違う…世の中、そう甘くない。
Last Train to London(1979)、半世紀前のTimeless Classicを思い出す。
彼は9:29発最終電車に駆けこみ、新しい扉を開いたかのように思えたが…。
そう言えば、切符売り場の職員が、異質な雰囲気を漂わせながら、薄気味悪い笑みをこぼしていたのを思い出した。
そのとき変だと思わなかった?
「向こうを見て…私たちと同じ時刻に出た列車が走っている…あの電車も9:29発?」
「乗る電車を間違えた?」
「9:29発電車は、二本あったの?」
「じゃ、この電車はどこに向かっているの?」
「行先はLondonとは書いていない…あそこを見て…別の行先を書いてある…でも、その字が読めない。この世のものじゃない…今、どこに向かっているの」
どんどん離れていく。