第一話 幻月
第二話 さらなる<偶然性>と見えていなかった<必然性>
第三話 ちょっぴり早い、クリスマスイブ ―深紅のバラ―
第四話 雪化粧
第五話 お帰りやす
第六話 生演奏
第七話 You Can Do Magic
第八話 Last Train
第九話 美しく流れるメロディライン
第十話 結婚するって本当ですか?
第十一話 Antonym『アントニム』
第十二話 魑魅魍魎
第十三話 俯瞰
第十四話 陶酔
第十五話 ダブル・・・
第十六話 Survive(生き抜く)
第十七話 絶体絶命
第十八話 Out Of Control & Take My Breath Awa
第十九話 I Cannot Die
第二十話 乱高下
第二十一話 STORIES
第二十二話 Brain Jack
第二十三話 人間らしさ…Into the Conflict
第二十四話 影
第二十五話 Lock On
第二十六話 黒子という名の主役
或る東北地方。
三陸沖に面してリアス式海岸が連なっている。
その岩壁の頂上付近で睨みを利かせる隼(はやぶさ)。
数キロ先まで海上の獲物を探している。
隼は、世界のどこにでも生息する。
猛禽(もうきん)類の肉食鳥。
彼らは、Lock Onできるレベルにまで達すれば、ほぼ確実に獲物を仕留めることができる。
急降下時の最高時速400kmを越える。
世界最高速の生物。
東北新幹線の代名詞としても使われている。
F1マシンは時速400kmに届くかどうか。
東北新幹線の最高速度は約時速300km。
大谷選手のホームランの確信歩きバットフリップでも時速180-200km。
隼は巣を作らない。
都心のタワーマンションの最上階付近のように人工的な場所にも生息している。
賃貸料が発生しない贅沢な所に居を構える。
彼らは、捕獲した餌を嘴に銜(くわ)え、自分の巣に持って帰り、そこで生肉の状態で食べる。
二十歳代後半、或る大学病院で300g前後の購入した実験用ラットを、ゲージから一匹ずつ取り出し、首根っこを手でつかまえ暴れないようにして、数秒の間隙を使い、腹部に全身麻酔の注射を打ち眠らせる。そして、ラットの耳の中に固定器具を挿入し、ラット用脳固定装置で動けないようにする。メスを使って頭皮を剥ぎ、頭蓋骨にドリルで穴を開け、ラット解剖図アトラスで知り得た知識を使って、慎重に深さを0.1mm以内誤差の微小単位で、脳内に実験用器材を埋め込む。
実験仕様のオペ。
オペが終わり、ラットが麻酔から覚醒すると毎日餌をやり、飼育しながら実験の渦中に入っていく。
オペ後に飼育が始まるので、一度実験をスタートすれば、その実験が完全に終わるまで、少なくとも数カ月間、一日も休日はない。
何年も無休の日々が続いた。
好ましい結果は得られない。
巨大な冷凍庫の中には、実験が終了したラットの凍結体で一杯。
確か動物慰霊祭が毎年のように行われていた。
その一方、精神科外来、病棟の勤務などの臨床の仕事が待っている。
頭を切り替え、180度違う仕事をやらないといけない。
意味のない無駄なトキは非常に大切であり、決して無駄ではない。
意味のないトキが、実は最も意味のあるトキかもしれない。
しかしながら、結果が出ないと、どうしても意味のない無駄な時期を過ごしたと考えてしまいがち…。
後から振り返れば、長期スパンでトキの流れを読むことができればと思うが、なかなかそうはいかない。
無駄な時間を過ごしているとき、今は我慢の時期と考えることができない。
実がなる前の、<種蒔き>の時期であると頭ではわかっても、心が追い付いて行かない。
最初は誰でも無駄と思えるトキでスタートを切るのが普通。
最初からSuccess Storyはそうそうない。悲運が続いても、最後はHappy Endで終わると理想的…。
最後の最後まで粘らないとHappy Endはそう容易く転がり込んでこない。
その真逆もあるから、人生は<一寸先は闇>で予測不能。
未来が読めない。
今は、休息日がある。
六本木に座席数500を越える、日本で有数のラージスクリーンのなかでの出来事。
眼前には10m前後の巨大スクリーン。
まもなくMission Impossibleが始まる。
スクリーンまで数十mはある。
スマホやテレビとは比較できないほど、フォーカスをかなり前方に持って来れる。
鑑賞しながら眼のストレッチに最高の条件が整っている。
一般に、耳から英語が入り、眼で字幕の日本語訳を見て、すぐに眼を上方に少しずらし、画面を観る…目の微細な上下運動。
眼球運動も兼ねて、しかも「英語の勉強にもなる」心地よい脳刺激
テニスの試合会場なら、観客はラリーのテニス・ボールを眼で追う。
結果、眼の左右運動。それだけではボールを追えないので、顔の横振り運動も引きずられる。
会場の観客の眼球運動、及び顔の横振りを、斜め上方から眺めるのも悪くない。
丹田(腹式)呼吸でお臍の下に重心を置く。肩には一切力が入らないようにセットする。
腹筋のストレッチにもなる。
以上、眼、脳、腹筋のストレッチも兼ねた数時間。
最初は、上映開始時にすべてLock On。
Mission Impossibleのようなアクションの連続であれば、Lock Onにしたつもりでも、知らないうちに解除され、Lock Offになっている。
肩に力が入り、重心が高くなる。
上映中にそのLock Offの状態に気付けば、すぐさまLock Onのやり直し。
リセット。
慣れれば、全然疲れなく、ライブ感覚を楽しめる。